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環境生活センター鷹村憲司技術顧問による環境コラム「えこらむ」は、毎月月初に更新予定です。

 
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神に捧げるお菓子めぐり(2025年10月)

前回は、全国各地のライスを食べ歩いておなか一杯になりました。ご飯の後はちょっと甘いものが欲しいよね。というわけで、今回は全国各地のお菓子めぐり。前回は日本の郷土種となった元洋食の話でしたが、今回は純正の和風でまとめてみたいと思います。地域で育まれたお菓子を眺めながら、その地域の歴史・風土や日本人の奥底に流れる日本的なものを感じていただけると幸いです。実は、その地域の土着のお菓子は、人々の祈りやお祝い事と密接にかかわりあっているのです。

木の小判と竹の団子

去年だったか、長野は松本で大学の同期の同窓会がありました。せっかく松本まで来たので、中央本線を南木曾で途中下車して中山道をさまよったのでした。

妻籠で五平餅を食べた。うまいね。このうまみの奥行きを出しているのはクルミです。聞けば、蜂の子をすりつぶしてタレに混ぜるところもあるそうです。蜂の子バージョンも食べてみたいな。五平餅は、ハンゴロシにしたうるち米を扁平な小判型に成型して串に刺し、醤油や味噌の甘味タレを塗って焼いたものです。

中山道をうろついていて分かったのですが、五平餅には団子型のものもあります。どう違うんだろう?注意してみると、小判型の五平餅は幅のある木串に、団子型の五平餅は竹串に刺さっている。ここで思い出すのが焼き鳥のつくねです。つくねは細い竹串ではなく、幅のある木串に刺してあることが多い。つくねは普通の焼き鳥と違って柔らかいから、細い竹串では固定しにくいからでしょう。小判型の五平餅は幅があるので木串じゃないと固定しにくいのかなと思ったわけです。資料を見ていると、五平餅は木曽地域が小判型で木串、伊那地域が団子型で竹串とあり、その理由として、木曽地域は木曽ヒノキを使うから、伊那地域は暖かいので多く生える竹を使うからとありました。お菓子にも地域の植生が関係してるのですね。

しかし、平地の少ない木曽谷や伊那谷で米は貴重なものだったことは想像に難くない。五平餅はハレの日の食べ物で、大変なごちそうだったことでしょう。田植えや稲刈りの後には五平餅会というものが開かれ、みんなで五平餅を食べたそうです。

 
五平餅と信州そば
五平餅と信州そば。これぞザ・信濃の鉄壁な組み合わせ。(妻籠にて)
 

五平餅は長野だけでなく、近県の岐阜、愛知、静岡にもあります。というより、長野では南信といわれる塩尻より南の木曽・伊那地域が中心で、もともと北信にはなかったそうです。じゃあ北信は?というと、北信は「おやき」なのです。

めでたい食べ物

おやきは、小麦粉とそば粉の生地で野菜などで作ったあんを包み、焼いたものです。おやきは、急峻な地形や寒冷な気候のため稲作に適さなかった地域で生まれた小麦粉などを使った「粉もん」の食べ物です。おやきは、北信地域の冬季の米の代わりの代用食だったのですが、お盆には欠かせないハレの日の食べ物でもあるそうです。

寒冷地の小麦で包む粉もんの食べ物の典型は餃子でしょう。餃子発祥の地中国北部では、餃子の皮という商品はなく、食べるたびに小麦粉をこね、切って伸ばして皮を作り、包んで水餃子にします。中国では、基本的に焼餃子は残り物の餃子の食べ方です。中国では丸いものは縁起物で、餃子は節句や婚礼などのハレの日の食べ物なのです。

五平餅、おやき、餃子、いずれも元々はハレの日に食べる神に捧げるめでたい食べ物なのです。

 
野沢菜のおやき
野沢菜のおやき。
あんにする野菜は、野沢菜やナス、切干大根などで、調理して味をつけてある。
 

包むお菓子

おやきを見て思い出すのが熊本の「いきなり団子」です。いきなり団子は、輪切りにしたサツマイモとこしあんを小麦粉の生地で包んで蒸したお菓子です。「いきなり」というのは、簡単に作れてすぐ出せることから名づけられました。こしあんを入れるようになったのは近年のことで、それまでは中身はサツマイモだけというシンプルな食べ物だったようです。熊本は稲作に不適な地域ではないですが、阿蘇の火山灰のやせた土地でもできるサツマイモという救荒作物を活用した郷土食なのです。

熊本に近い福岡県の八女地区の山村に嫁いだ妹から以前、地元で食べるもののおすそ分けとして、こしあんなしのいきなり団子のサツマイモの代わりにサトイモが丸ごと入ったものが送られてきたことがあります。なんでも、秋のサトイモの収穫時期にはよく作るものだそうです。熊本・福岡地方では、芋を生地で包んだ食べ物は定番の郷土食なのかもしれません。

 
熊本のいきなり団子
熊本のいきなり団子。熊本土産の定番になってしまった。
最近は、生地にヨモギが入った緑色のものや、紫芋を使った紫色のものなどバリエーションが多い。
 

そういえば、生地に包まれた似たようなお菓子が同じ九州にあったのを思い出しました。それは、大宰府の梅ヶ枝餅です。梅ヶ枝餅は小豆あんを餅の生地で包み、鉄板で焼き、梅の花の焼き印が押してあるお菓子です。梅ヶ枝餅には、こんな言い伝えがあります。菅原道真が大宰府に左遷されて屋敷に軟禁され、食べることもままならなかった時、老婆が部屋越しに梅の枝の先に餅を刺して差し入れたのが由来というものです。

 
大宰府の梅ヶ枝餅
大宰府の梅ヶ枝餅。
天満宮門前の商店街では、以前はどの店も「元祖」と表示していたが、今はそれはなくなったようだ。
 

巡り巡って五平餅

菅原道真の歌というと、辞世の歌「東風吹かば にほひおこせよ 梅の花 あるじなしとて春な忘れそ」が有名ですが、百人一首に選定されたのは次の歌です。

このたびは 幣もとりあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに
 

今度の旅は急なことで、神に捧げる幣も持って来ることができませんでしたが、この手向山の紅葉を捧げますので、神よ、御心のままにお受け取りください。

「たび」と「たむけ」は掛詞になっています。幣の代わりに紅葉を捧げると言っているのです。「幣」(ぬさ)とは何か。幣とは「御幣」(ごへい)のことです。御幣は、神社に行くと社殿に捧げてあったり、神主さんが持っている竹や木の棒(幣串)の先にジグザグに折って垂れ下がった紙(紙垂:しで)がついているあれです。御幣とは、神々への捧げ物のことで、その意味を表す「幣」に尊称の接頭語「御」がついたものです。御幣は紙垂に目がいきますが、本体はそれではなく、紙垂の根元の棒に挟まれた紙(幣紙)です。

 
御幣
御幣。本体は垂れ下がった紙ではなく、その根元の棒に挟まれた部分である。
 

「御幣」は「五平」。そう、五平餅は御幣に形が似ているからこう呼ばれているという説があります。実際、五平餅と書かずに、御幣餅と書くところもあるそうです。

 
めでたいお菓子を巡りながら、巡り巡って五平餅。
 
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〇〇ライスの謎(2025年9月)

初回、前回と「地球」という大きなテーマを大上段に振りかぶった話をしてきたので、今回はぐっと趣向を変えて口直しに食べ物の話をしてみたいと思います。食べ物というものは、その土地の風土・文化が時間をかけて醸成してきたものなので、環境や健康を考える上でもとても重要なものなのです。

全国には「〇〇ライス」という食べ物がいくつかあります。各地にあるこれらのご当地グルメの〇〇ライスは、地元の人から見れば当たり前のものですが、外の人間から見るとどれも「へぇ~」というものです。そして、この〇〇ライスはその名のとおり日本食化された洋食で、どれもガッツリ系のB級グルメなのがうれしいです。こじゃれてなくてストレートで、小生の好みにぴったりなのです。今回は、仕事で全国各地をさまよって巡り合った各地の〇〇ライスを食態学の立場から紹介してみようと思います。

沖縄の「タコライス」

西から順に攻めていくと、まずは沖縄の「タコライス」でしょう。タコライスは結構ポピュラーな料理になったので、ご存じの方も多いと思いますが、これはメキシコ料理のタコスの外側を包んでいるトルティーヤをライスに置き換えたものです。

「小生は自分でも作りますが、沖縄に行くと、挽肉をトマトソースで調味した「タコミート」なる具材を売っています。ご飯の上にレタスの千切りとタコミートをのせ、トマトの角切りとスライスチーズを散らし、みじん切りにしたトマト、玉ねぎ、ピーマン等で作るピリ辛のサルサソースをかければ完成です。

 
タコライス
タコライス。最近はトマトをくし形に切ってきれいに並べたようなものも見かけますが、この料理は混ぜご飯感覚で食べるもので、こじゃれては魅力が失われてしまいます。
 

ジューシー(炊き込みご飯のことを沖縄ではこう呼ぶ)を練り物(魚のすり身)で包んで揚げたおにぎり「ばくだん」や、焼いたランチョンミートと玉子焼きを組み合わせた「ポーク玉子」などなど、沖縄には各種料理がクロスオーバーした食べ物が多く、非常に興味深いです。ちなみに、一品料理だったポーク玉子は、近年はコンビニでおにぎりなどにして売られ、さらに進化を遂げています。

長崎の「トルコライス」

次は、長崎の「トルコライス」です。小生は、仕事で長崎県庁に行った時、役所の食堂で初めてこれに遭遇しました。一目見てその組み合わせに感動し、即注文しました。

トルコライスは、ピラフの上にトンカツがのり、それにデミグラスソースがかかり、スパゲッティを添えたもので、「大人のお子様ランチ」とよばれることもあります。ピラフはカレーピラフ、スパゲッティはナポリタンのものを正統とします。

 
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トルコライス。誰が最初に作ったのか、どうしてこんな名前がついたのか、今もって謎です。
 

このカレー、トンカツ、デミグラスソースというのが重要な要素で、惜しむらくは玉子がほしい。これにオムレツまたはオムライスの形で玉子が加われば完璧です。余談ですが、東京は築地にあった食堂「豊ちゃん」の最強メニューが「オムライス カツのっけ 両がけ」というもので、白いご飯の上にふわふわのオムレツとトンカツがのり、その上にカレーとハヤシが半々にかかっているというものです。たたずまいは違えど、小生はトルコライスをみて、即座に「豊ちゃん」の最強メニューを思い出しました。

問題は、トルコライスという名前です。そもそもトルコはイスラム国で、豚肉は厳禁です。トルコと何の関係があるのか。トルコライスの発祥の場所もいきさつも、名前の由来も、様々な説があるようですが分かっていません。

佐賀の「シシリアンライス」

次は、同じ九州は佐賀の「シシリアンライス」です。シシリアンライスは、ご飯の上に生野菜と炒めた肉をのせ、マヨネーズをかけたものです。シシリアンライスの構成要素は、ご飯、生野菜、肉で、タコライスと同種の食べ物であることを示唆しています。違うのは、肉は挽肉ではないことと、マヨネーズがかかっていることです。

このように、構成要素の決まり事は、ご飯、生野菜、肉、マヨネーズだけなので、自由度が高くバリエーションが多いのがシシリアンライスの特徴です。特に野菜はレタスとトマトというタコライスと比較するとその違いが分かります。例えば下記の写真だと、キュウリ、パプリカ、蓮根、水菜、サニーレタスなどが確認できます。

 
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シシリアンライス。これは家庭でも残り物で手軽にできます。
ご当地では、ステーキ肉やローストビーフを使ってハイグレードにしたものもあります。
 

シシリアンライスは、飲食店のまかない料理として出されたものが広まったというのが通説です。トルコライスと同様、では誰が最初に作ったのかという発祥については、様々な説があり、確定的なことは分かっていないようです。また、「シシリアン」という名前の由来も諸説あり、よく分かっていませんが、映画「ゴッドファザー」の舞台であるシチリアからきたという説が有力だそうです。しかし、何でゴッドファザーなんだ?マーロン・ブランドもびっくりだ。佐賀と何の関係もないと思うのですが。

福井の「ボルガライス」

福井は越前(旧武生)の「ボルガライス」は、同じ福井のヨーロッパ軒のソースカツ丼と並ぶ福井のご当地グルメです。敦賀で仕事をやっていた時これに遭遇し、トルコライスと同様の感動を覚えました。と言うのも、ボルガライスとトルコライスはよく似ているのです。

 

ボルガライスは、オムライスの上にトンカツを乗せ、ソースをかけたものです。トルコライスとの違いは、ピラフではなくオムライスであることと、スパゲッティがないことです。トルコライスのところで述べたように、トルコライスの唯一の弱点は玉子がないことです。なので、小生にとっては、ボルガライスは満点の食べ物なのです。

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越前市職員らが「日本ボルガラー協会」なるものを結成し、ボルガライスの普及活動に取り組んでいるそうです。
そして何と!あのオタフクソースが日本ボルガラー協会と共同開発し、
業務用ボルガライスソースを販売しているそうです。
 

ボルガライスは、オムライスの中味はケチャップライス、ピラフ、チャーハンなど、ソースはデミグラスソース、トマトソースなどのバリエーションがあります。

ボルガライスも発祥や名前の由来はよくわかっていませんが、浅草の洋食屋がヴォルガ・ドン運河に因んだ洋風カツ丼を創作し、武生で洋食屋が開店する際、東京から招かれたシェフが伝えたという説がもっぱら通説のようです。しかし、当該運河とトンカツのせオムライスと一体どういう関係があるのかさっぱりわかりません。

石川の「ハントンライス」

最後は、石川は金沢の「ハントンライス」です。これはケチャップライスの上にスクランブルエッグ状の玉子焼きがのり、その上に白身魚のフライをのせたものにタルタルソースとケチャップをかけたものです。これまでの〇〇ライスの構成要素と異なるのは、白身魚のフライとタルタルソースです。この二つは互いにセットのアイテムで、他の〇〇ライスと比べた時、ハントンライスの大きな特徴と言えます。

 
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ハントンライスと言えば金沢は片町のグリルオーツカ。
ゴーゴーカレーなどの金沢カレーと同様、金属製の皿で提供されるのが定番です。
 

ハントンライスは、これまでの〇〇ライスと異なり、発祥がはっきりしています。但し、それには二つの説があり、まず一つは金沢市内のデパートのレストランで働いていた料理人が、独立開業した際に賄い料理だったものを提供したとするもの。もう一つは、かつて金沢にあったジャーマンベーカリーがレストランを出店する際に考案されたというものです。

名前の由来は、「ハン」はハンガリーの「ハン」、「トン」はフランス語でマグロのことだそうです。しかし、何でハンガリーを「ハン」に縮める必要があったんだ?何でマグロを持ち込まなければならなかったんだ?上にのっているフライは白身魚でしょうが。しかも、何でフランス語なんだ?分からないことだらけです。

〇〇ライスの分類学

これらの種を構成要素に従って大きく分類したものが下図です。トルコライスとボルガライスとハントンライスは野菜という構成要素がないという点で同種に分類されます。この3種のうち、トルコライスとボルガライスは生息地がそれぞれ長崎、福井と離れていますが、DNA解析による系統分類学的に言うと非常に近い近縁関係にあります。

大きな違いは玉子の有無です。逆に言うと、もしトルコライスに玉子という構成要素が加わったなら、食態系ピラミッドの最上位種に位置づけられるでしょう。但し、食う・食われるの関係からは、最上位種は最も食われるものですが。

 
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これらの種にほぼ共通してみられる特徴は、発生のいきさつや命名の由来が不明ということです。発生のいきさつについては唯一ハントンライスだけが、命名の由来については唯一タコライスだけが確認されています。特に命名については、洋食であることをいいことに、トルコ、シシリア、ボルガ、ハン(ガリー)とヨーロッパの地名が何の脈絡もなくおり込まれていますが、原産地は日本の郷土種であることは間違いなく、大きな謎となっています。

生物多様性ならぬライス多様性はやっと研究の途についたばかりです。絶滅の危機に瀕することのないよう、保全・活用を進めていかなければなりません。

 
みんなちがって みんないい
 
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地球―この美しくもか弱きもの(2025年8月)

先月の初回の本コラムでは、一つの大きな生命としてとらえた地球の話をしました。今回はその続編として、地球の歴史と人類のあり方について「やさしいことをふかく」少し掘り下げてみたいと思います。

地球モデルー薄い卵の殻

環境講座でのワークショップのプログラムのひとつに「地球モデル」と「地球年表」というものがあります。

「地球モデル」は、大きな模造紙に半径32cm(直径64cm)の円を手作りコンパスで書きます。手作りコンパスは、ペンを2本用意してペンどうしを糸で結び、ペン先の間隔が32cmになるように調整します。1本を手で押さえて固定し(円の中心になる)、もう一本で円を描きます。円が描けたら、その2.5mm外側と1.5mm内側にしるしをつけます。

実は、これは地球なのです。地球の半径は約6,400kmです。今描いた円は縮尺2百万分の一の地球にほかなりません。では、円の外側と内側のしるしは何でしょうか。外側のしるしは大気圏、内側のしるしは地殻です。

大気の厚さは500kmといわれていますが、ある程度大気の密度がある成層圏までは50kmで、外側のしるしがこれにあたります。なお、大気の約75%が含まれる対流圏までは15kmです。一方、地殻の厚さは大陸では30~60km、海洋では5~7kmで、平均すると30kmほどです。

「地球モデル」の直径64cmの円の外側のわずか2.5mmに大気があり、内側のわずか1.5mmが地殻です。どこまでも続く大空、固く厚い大地は、地球規模でみればまさに「卵の殻」です。「地球モデル」は、それを作成することにより、「卵の殻」の薄さを実感するものです。この薄い卵の殻の中で人間は二酸化炭素を排出し、山を削り海を埋めているのです。天は落ち、大地は裂ける。何かあれば薄い卵の殻はたやすく割れてしまいます。地球は実に脆弱なものなのです。

地球年表―あっという間に壊してしまった

「地球年表」は、ロール巻きの障子紙を用意し、4.6mの長さに切断します。なぜ4.6mかというと、地球の歴史は46億年だからです。すなわち、「地球年表」では、10cmが1億年、1cmが1千万年なのです。参加者は各自資料を調べながら、この「地球年表」に地球誕生からこれまでに起こった生物イベントを書き込んでいきます。例えば、最初の生命の誕生は約40億年前といわれており、それから約22億年かけてやっと細胞に核を持つ真核生物が誕生します。植物でさえ、現在の多くの植物の基本形である維管束植物が登場したのは約4億7千万年前、恐竜が登場したのは約2億3千万年前、そして、ようやく人類(ホモ・サピエンス)が登場するのは約20万年前、「地球年表」でいうと紙の端からわずか0.2mmなのです。この段階で狭すぎて、もう書き込めません。

 
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地球年表の一例
 

地球が生まれてこの方4.6mの歴史の中で、人類が登場したのは紙の端から0.2mm、産業革命が起こったのはわずか0.00025mmです。この0.00025mmの間に膨大な量の二酸化炭素を吐き出し、46億年続いた地球の環境を大きく変えようとしているのです。わずか250年の時間で。私たちはなんと罪深いことをしているのでしょうか。

地球暦―われわれに来年はあるのか

「地球年表」と同様の趣旨のものに「地球暦」があります。これは地球誕生から現在までを1年の暦としたものです。すなわち「地球暦」では、1月1日の午前0時が地球誕生です。生命誕生は2月17日頃ですが、恐竜が登場したのはもう師走に入った12月10日頃、人類の登場に至っては、除夜の鐘がしきりに聞こえる12月31日23時48分、産業革命は12月31日23時59分58秒なのです。

 
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ああ、もう日付が変わってしまう。新たな年は来るのか・・・
僕は「あけましておめでとう」と言いたい
 

12月31日23時48分に登場した人類は、年が明ける2秒前から始まった産業革命により、それまで364日23時間59分58秒かけて生物・無生物が築き上げてきた地球を取り返しのつかないものにしようとしているのではないでしょうか?

まばたきしている間に、地球は壊れてしまうのです。

エコロジカル・フットプリントー地球があと2個必要

環境の足跡・・・「エコロジカル・フットプリント」(以下「EF」)という言葉があります。EFは、人間活動が地球環境に与えている負荷をあらわす指標で、人間一人が生活を維持するために必要な土地の面積のことをいいます。すなわち、食糧生産のための耕作地やCO2吸収のための森林など、私たちの生活を支えるために必要な土地―人間が自然環境を踏みつけている土地―のことであり、gha(グローバル・ヘクタール)/人という単位であらわします。

その国のEFを世界平均のEFで割れば、もし世界中の人がその国と同じような生活をしたとすると地球が何個いるかという数字になります(これを仮に「必要地球量」とよびます)。必要地球量が1を超えた状況を「オーバーシュート」といい、1970年代にはすでに地球はオーバーシュートの状況にあったといわれています。すなわち、昭和50年(カープが初優勝した年!)頃には、地球はその許容量を超えていたのです。環境省によれば、2018年現在、必要地球量は世界平均で1.7、日本は2.9、アメリカに至っては5.1です。

当たり前ですが、かけがえのない地球はひとつしかありません。そしてその地球は薄い殻に包まれたとても脆弱なものなのです。

もし、世界中の人が日本と同じような生活をしたとすると・・・

 
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もし、世界中の人がアメリカと同じような生活をしたとすると・・・

 
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アメリカは論外にしても、日本がぜいたくなのか、世界が貧しいのか・・・かけがえのない宇宙船地球号に生きる市民の一人として、日本人はこんな生活をしていていいのでしょうか?

Think Globally, Act Locally・・・私たちは何をすべきなのでしょうか?

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「みんなの生命(いのち)をまもる」ということ (2025年7月)

ごあいさつ

「むずかしいことをやさしく やさしいことをふかく ふかいことをおもしろく おもしろいことをまじめに まじめなことをゆかいに そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」・・・井上ひさしの言葉です。

7月から環境コラム「えこらむ」を毎月月初に本ホームページに掲載することになりました。環境に関することや社会の様々な事象を、むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろくご紹介していこうと思っています。みなさまの琴線に少しでも触れることができたら幸甚です。

土や石にも生命(いのち)がある

わたしたち広島県環境保健協会の基本理念は、「みんなの生命(いのち)をまもりつづけたい」です。ここでいう「みんな」とは、地球上の人間や動植物を総称しています。

ところで土は、単に石が細かく砕かれてできたものではありません。土壌中には様々な微生物が生息しており、その数は土壌1グラム中に細菌だけでも100億を超えるといわれています。植物の遺骸である腐植や、動物の死骸、それらを分解するミミズなどの目に見える生き物から細菌や菌類など目に見えない生き物まで多くの生き物が「つながって」生き、土を作っているのです。私たちも死ねば「土にかえる」。土は生きているのです。

であれば、土も「みんな」の仲間なのです。さざれ石は巌となり、風水でまた砕かれて土になる。日本人は古来よりその循環を肌で知り、土や石にも生命があり、神が宿ると考えてきたのです。仏教では、心を持つ人間だけでなく、心を持たない山や川、草や木など、すべてのものが仏になれると考えます。これを「悉皆成仏」(しっかいじょうぶつ)といいます。

 
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植物や動物、風や水の力で土はできる
 

「風水でまた砕かれて土になる」と書きましたが、尽きることのない川の水はどこから来るのでしょうか?それは雨が降るからです。では、雨の水はどこから来るのでしょうか?それは雲ができるからです。では、雲はどうしてできるのでしょうか?それは海の水が温められて蒸発するからです。では、海の水はどうして減らないのでしょうか?それは川が水を供給するからです。というふうに、水も地球規模で循環しているのです。

土や石も生きている。水も生きている。それをよりどころにして人間や動植物が生きている。それらがかかわりあって、つながりあって、地球という大きなひとつの生命をつくりあげているのです。

 
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地球は大きなひとつの生命(いのち)
 

宇宙船地球号

「宇宙船地球号」は、アメリカの思想家バックミンスター・フラーが今から60年以上も前に提唱した言葉で、地球という閉ざされた系の資源の有限性を主眼にとらえたものでした。その思想は1992年の地球サミットの中心概念となった「持続可能な開発」として受け継がれ、近年ではSDGsとして再構築されています。

 
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フラーの「宇宙船地球号操縦マニュアル」は、ちくま学芸文庫から出版されている
 

映画の世界に目を向けると、古くはタルコフスキーの「惑星ソラリス」や宮崎駿の「風の谷のナウシカ」、近年ではジェームズ・キャメロンの「アバター」・・・これらの映画では、星を一つの大きな生命体としてとらえ、そこに生きる生きものはすべてつながっていることを描いています。フラーの概念は、地球の有限性に警鐘を鳴らしたものでしたが、これらの映画では、その概念を生命のつながりにまで広げています。地球とは、それ自体が、それ全体が、ひとつの大きな生命体なのです。

みんなの生命をまもりつづけたい

「みんなの生命をまもる」ということは、私たち人間の生命をまもることにとどまりません。それは、生きとし生けるものすべてをまもること。いや、それだけではありません。それらの生きものが命のよりどころとしている周りの環境・・・すなわち土や石や水や空気をまもること。それは地球をまもること。すなわち、私たちは、私たち自身はもとより、動物や植物、土や石さえも、すべての命あるものの健康、そのためにあるべき環境をまもっていかねばなりません。

私たち広島県環境保健協会は、きれいな水や空気、生きものの「個性」と「つながり」を大切にし、みんなの生命をまもりつづけていくことを大きな使命として、社会に貢献していきます。

 

一般財団法人 広島県環境保健協会[略称:環保協(かんほきょう)]

営業時間:平日(月~金) 8:30~17:30

  • 本部(大代表)

    〒730-8631 広島市中区広瀬北町9番1号
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  • 地域活動支援センター

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