
環境生活センター鷹村憲司技術顧問による環境コラム「えこらむ」は、毎月月初に更新予定です。
「みんなの生命(いのち)をまもる」ということ (2025年7月)
ごあいさつ
「むずかしいことをやさしく やさしいことをふかく ふかいことをおもしろく おもしろいことをまじめに まじめなことをゆかいに そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」・・・井上ひさしの言葉です。
7月から環境コラム「えこらむ」を毎月月初に本ホームページに掲載することになりました。環境に関することや社会の様々な事象を、むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろくご紹介していこうと思っています。みなさまの琴線に少しでも触れることができたら幸甚です。
土や石にも生命(いのち)がある
わたしたち広島県環境保健協会の基本理念は、「みんなの生命(いのち)をまもりつづけたい」です。ここでいう「みんな」とは、地球上の人間や動植物を総称しています。
ところで土は、単に石が細かく砕かれてできたものではありません。土壌中には様々な微生物が生息しており、その数は土壌1グラム中に細菌だけでも100億を超えるといわれています。植物の遺骸である腐植や、動物の死骸、それらを分解するミミズなどの目に見える生き物から細菌や菌類など目に見えない生き物まで多くの生き物が「つながって」生き、土を作っているのです。私たちも死ねば「土にかえる」。土は生きているのです。
であれば、土も「みんな」の仲間なのです。さざれ石は巌となり、風水でまた砕かれて土になる。日本人は古来よりその循環を肌で知り、土や石にも生命があり、神が宿ると考えてきたのです。仏教では、心を持つ人間だけでなく、心を持たない山や川、草や木など、すべてのものが仏になれると考えます。これを「悉皆成仏」(しっかいじょうぶつ)といいます。

「風水でまた砕かれて土になる」と書きましたが、尽きることのない川の水はどこから来るのでしょうか?それは雨が降るからです。では、雨の水はどこから来るのでしょうか?それは雲ができるからです。では、雲はどうしてできるのでしょうか?それは海の水が温められて蒸発するからです。では、海の水はどうして減らないのでしょうか?それは川が水を供給するからです。というふうに、水も地球規模で循環しているのです。
土や石も生きている。水も生きている。それをよりどころにして人間や動植物が生きている。それらがかかわりあって、つながりあって、地球という大きなひとつの生命をつくりあげているのです。

宇宙船地球号
「宇宙船地球号」は、アメリカの思想家バックミンスター・フラーが今から60年以上も前に提唱した言葉で、地球という閉ざされた系の資源の有限性を主眼にとらえたものでした。その思想は1992年の地球サミットの中心概念となった「持続可能な開発」として受け継がれ、近年ではSDGsとして再構築されています。

映画の世界に目を向けると、古くはタルコフスキーの「惑星ソラリス」や宮崎駿の「風の谷のナウシカ」、近年ではジェームズ・キャメロンの「アバター」・・・これらの映画では、星を一つの大きな生命体としてとらえ、そこに生きる生きものはすべてつながっていることを描いています。フラーの概念は、地球の有限性に警鐘を鳴らしたものでしたが、これらの映画では、その概念を生命のつながりにまで広げています。地球とは、それ自体が、それ全体が、ひとつの大きな生命体なのです。
みんなの生命をまもりつづけたい
「みんなの生命をまもる」ということは、私たち人間の生命をまもることにとどまりません。それは、生きとし生けるものすべてをまもること。いや、それだけではありません。それらの生きものが命のよりどころとしている周りの環境・・・すなわち土や石や水や空気をまもること。それは地球をまもること。すなわち、私たちは、私たち自身はもとより、動物や植物、土や石さえも、すべての命あるものの健康、そのためにあるべき環境をまもっていかねばなりません。
私たち広島県環境保健協会は、きれいな水や空気、生きものの「個性」と「つながり」を大切にし、みんなの生命をまもりつづけていくことを大きな使命として、社会に貢献していきます。