ダイオキシン類対策特別措置法について
「ダイオキシン類対策特別措置法」(公布:平成11年7月16日 法律第105号)は、ダイオキシン類による環境汚染の防止や、その除去等を図り、施策の基本とすべき基準、必要な規制、汚染土壌に係る措置等を定めることで、国民の健康の保護を図ることを目的としています。
1.ダイオキシン類とは
「ダイオキシン類対策特別措置法」は、ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDD)およびポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)にコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)を含めて、ダイオキシン類と定義しています。塩素の付く位置や数によって性質が異なり、PCDDは75種類、PCDFは135種類、コプラナーPCBは数十種類(うち毒性のあるもの29種類)となっています。
ダイオキシン類は、常温では無色無臭の固体で、水に溶けにくく、蒸発しにくい反面、脂肪などに溶けやすい性質を持っています。意図的に作成された物質ではなく、炭素・酸素・水素・塩素が熱せられる過程で自然にできてしまう副生成物です。自然界でも火山活動などにより生成するといわれています。他の化学物質や酸、アルカリと簡単に反応せず、分解しにくく、環境中に残留しやすい性質があります。動物実験では、強い急性毒性が明らかです。人に対しては、発ガン性や甲状腺および免疫の機能低下、生殖障害などがあるといわれています。ただし、現在のわが国の通常の環境汚染レベルでは危険はありません。
発生源は、ごみ焼却による生成の割合が高く、その他にも製鋼用電気炉、鉄鋼業、自動車排ガスなど様々な発生源があります。主に、物の燃焼により発生し、大気中に放出されます。放出されたダイオキシン類は大気中の粒子などに付着し、植物の葉や土壌や川におちて環境を汚染していきます。いろいろな経路でプランクトンや魚介類に取り込まれ、生物に蓄積されていくと考えられています。体に入ったダイオキシン類のほとんどは脂肪に蓄積され、ごくわずかずつ体外へ排出されます。人の場合、体内に入ったダイオキシン類が半分の量になるのには約7年かかるといわれています。
生涯にわたって摂取し続けても健康に影響が現れないと判断される1日当たりの最大量(耐用1日摂取量:TDI)は、体重1Kg当たり4pgに定められています。
(参考)1pg(ピコグラム)は、1兆分の1g(10-12g)です。これは、東京ドームに相当する入れ物に水を満たし、角砂糖1個(1g)を溶かした時、その水1mlに含まれている砂糖が1pgです。
2.ダイオキシン類対策特別措置法の概要
(1)ダイオキシン類に関する施策の基本となる基準
耐用1日摂取量(TDI)(第6条):人の体重1Kg当たり4pg以下
環境基準(第7条):大気(0.6pg-TEQ/m3)、水質(1pg-TEQ/L)、底質(150pg-TEQ/g)、土壌(1,000pg-TEQ/g)
(2) 排出ガスおよび排出水に関する規制
「ダイオキシン類特別措置法」では、ダイオキシン類による環境汚染を防止するため、規制の対象となる施設を特定施設とし、施設ごとに排出基準を設定しています。
特定施設を設置しようとしている、あるいは既にしている事業者には届出が義務付けられています。特定施設の設置者は、事故によりダイオキシン類が大量に排出されたときは、直ちに応急措置を講じ、すみやかに復旧するよう努めるとともに、都道府県知事に事故状況の報告を行います。
廃棄物焼却炉に関する特定施設
廃棄物焼却炉に関する特定施設等は以下のとおりです。
- 火床面積0.5m2 は、円筒形の炉であれば直径約80cm、角形の炉であれば約70cm四角に相当です。
- 焼却の主たる目的が熱回収(ボイラー)の場合、廃棄物を焼却する炉は廃棄物焼却炉に該当します。
- ドラム缶による焼却などは焼却炉とみなしません。
なお、これらの行為は野焼きであり、廃棄物処理法で禁止されています。 - 火格子面積2m2以上又は焼却能力200kg/時間以上の施設(廃プラスチック類の焼却施設にあっては、焼却能力100kg/日超)は、廃棄物処理法の許可対象施設となり、構造・維持管理基準等が適用になります。
廃棄物焼却炉以外の特定施設
廃棄物焼却炉以外の特定施設は、大気基準適用施設と水質基準対象施設に大別されます。
No. | 該当施設 |
---|---|
1 | 焼結鉱(銑鉄の製造の用に供するものに限る。)の製造の用に供する焼結炉 原料の処理能力が1トン/時間以上のもの |
2 | 製鋼の用に供する電気炉(鋳鋼又は鍛鋼の製造の用に供するものを除く。) 変圧器の定格容量が1000キロボルトアンペア以上のもの |
3 | 亜鉛の回収(原料として製鋼用電気炉の集じん灰を使用するものに限る。)の用に供する焙焼炉、焼結炉、溶鉱炉、溶解炉および乾燥炉 原料の処理能力が0.5トン/時間以上のもの |
4 | アルミニウム合金の製造(原料としてアルミニウムくず(同一事業所内の圧延工程において生じたものを除く。)を使用するものに限る。)の用に供する焙焼炉、溶解炉および乾燥炉 溶解炉:容量が1トン以上のもの 焙焼炉および乾燥炉:原料の処理能力が0.5トン/時間以上のもの |
5 | 廃棄物焼却炉 火床面積※(炉の床面積)が0.5m2以上又は焼却能力※が50kg/時間以上のもの (※一つの焼却施設に二以上の焼却炉が設置されている場合にはその合計) |
No. | 該当施設 |
---|---|
1 | 硫酸塩パルプ(クラフトパルプ)又は亜硫酸パルプ(サルファイトパルプ)の製造の用に供する塩素又は塩素化合物による漂白施設 |
2 | カーバイド法アセチレンの製造の用に供するアセチレン洗浄施設 |
3 |
硫酸カリウムの製造の用に供する廃ガス洗浄施設 |
4 | アルミナ繊維の製造の用に供する廃ガス洗浄施設 |
5 |
担体付き触媒製造(塩素又は塩素化合物を使用するものに限る。)の用に供する焼成炉から発生するガス処理施設の内廃ガス洗浄施設 |
6 | 塩化ビニルモノマーの製造の用に供する二塩化エチレン洗浄施設 |
7 | カプロラクタムの製造(塩化ニトロシルを使用するものに限る。)の用に供する硫酸濃縮施設、シクロヘキサン分離施設および廃ガス洗浄施設 |
8 | クロロベンゼン又はジクロロベンゼンの製造の用に供する水洗施設および廃ガス洗浄施設 |
9 | 4-クロロフタル酸水素ナトリウムの製造の用に供するろ過施設、乾燥施設および廃ガス洗浄施設 |
10 | 2、3-ジクロロ-1、4-ナフトキノンの製造の用に供するろ過施設および廃ガス洗浄施設 |
11 | ジオキサジンバイオレットの製造の用に供するニトロ化誘導体分離施設、還元誘導体分離施設、ニトロ化誘導体洗浄施設、還元誘導体洗浄施設、ジオキサジンバイオレット洗浄施設および熱風乾燥施設 |
12 | アルミニウム又はその合金の製造の用に供する焙焼炉、溶解炉又は乾燥炉から発生するガスを処理する廃ガス洗浄施設および湿式集じん施設 |
13 | 亜鉛の回収(原料として製鋼用電気炉の集じん灰を使用するものに限る。)の用に供する精製施設、廃ガス洗浄施設および湿式集じん施設 |
14 | 担体付き触媒(使用済みのものに限る。)から金属の回収(ソーダ灰を添加して焙焼炉で処理する方法及びアルカリにより抽出する方法(焙焼炉で処理しないものに限る。)によるものを除く。)の用に供するろ過施設、精製施設および廃ガス洗浄施設 |
15 | 廃棄物焼却炉(大気基準適用施設に限る。)から発生するガスを処理する廃ガス洗浄施設、湿式集じん施設および汚水・廃液を排出する灰の貯留施設 |
16 | 廃PCB等又はPCB処理物の分解施設 PCB汚染物又はPCB処理物の洗浄施設および分離施設 |
17 | フロン類の破壊(プラズマを用いて破壊する方法、その他環境省で定める方法によるものに限る。)の用に供するプラズマ反応施設、廃ガス洗浄施設および湿式集じん施設 |
18 | 下水道終末処理施設(水質基準対象施設の1から17および19の施設から排出される下水を処理するものに限る。) |
19 | 水質基準対象施設の1から17の施設を設置する工場・事業場から排出される水の処理施設(これらの施設に係るものに限る。)(下水道終末処理施設を除く。) |
排出基準について
ダイオキシン類の施設ごとに排出基準が決められています。大気(排出ガス)排出基準および水質(排水)排出基準は以下のとおりです。排ガスは、政令で定める指定地域にあっては総量規制基準も設定されています。
No. | 種類 | 新施設の基準 | 既存施設の基準 | |
---|---|---|---|---|
1 | 焼結鉱製造用焼結炉 | 0.1 | 1 | |
2 | 製鋼用電気炉 | 0.5 | 5 | |
3 | 亜鉛回収用焙焼炉等 | 1 | 10 | |
4 | アルミニウム合金製造用焙焼炉等 | 1 | 5 | |
5 | 廃棄物 焼却炉 | 4トン/時間以上 | 0.1 | 1 |
2トン ~4トン/時間未満 | 1 | 5 | ||
200kg~2トン/時間未満 | 5 | 10 | ||
~200kg/時間未満 | 5 | 10 |
- 1.基準適用場所は各排出口(各煙突)とする。
- 2.酸素濃度の補正は、焼結炉にあっては15%、廃棄物焼却炉にあっては12%とする。
- 3.既存施設とは、H12.1.14までに施設の設置工事に着手しているものをいう。ただし、H9.12.2以降に設置工事に着手した製鋼用電気炉および廃棄物焼却炉(火格子面積2m2以上又は焼却能力200kg/時間以上のものに限る。)については新設施設とする。
- 4.廃棄物焼却炉の規模は、施設全体の規模ではなく焼却炉(燃焼室)の規模とする。
- 5.№1~4は、公害防止管理者などの選任対象事業所です。
No. | 種類 | 排出基準 |
---|---|---|
1 | パルプ製造用漂白施設 | 10 |
2 | カーバイド法アセチレン製造用アセチレン洗浄施設 | |
3 | 硫酸カリウム製造用廃ガス洗浄施設 | |
4 | アルミナ繊維製造用廃ガス洗浄施設 | |
5 | 担体付き触媒製造用廃ガス洗浄施設 | |
6 | 二塩化エチレン洗浄施設 | |
7 | カプロラクタム製造用硫酸濃縮施設等 | |
8 | (ジ)クロロベンゼン製造用水洗施設等 | |
9 | 4-クロロフタル酸水素ナトリウム製造用ろ過施設等 | |
10 | 2、3-ジクロロ-1、4-ナフトキノン製造用ろ過施設等 | |
11 | ジオキサジンバイオレット製造用ニトロ化誘導体分離施設等 | |
12 | アルミニウム・同合金製造用焙焼炉等の廃ガス洗浄施設等 | |
13 | 亜鉛回収用精製施設等 | |
14 | 担体付き触媒からの金属回収用ろ過施設等 | |
15 | 廃棄物焼却炉の廃ガス洗浄施設等 | |
16 | PCB処理施設 | |
17 | フロン類破壊用プラズマ反応施設等 | |
18 | 下水道終末処理施設 | |
19 | 事業場の排水処理施設 |
特定施設の設置者の使用届等
届出の手続き等は以下のとおりです。
届出の種類 | 内容 | 届出期限 |
---|---|---|
特定施設設置届 | 特定施設を設置しようとするとき | 設置の工事着手日の60日以前 |
特定施設使用届 | 既に設置している施設が新たに特定施設に指定されたとき | 指定された日から30日以内 |
特定施設の構造等変更届 | 特定施設の構造、使用方法、排ガス・汚水の処理方法等を変更しようとするとき | 変更の工事着手日の60日以前 |
氏名等変更届 | 届出者の氏名、名称、住所および法人の代表者氏名並びに事業場の名称および所在地に変更があったとき | 変更があった日から30日以内 |
特定施設使用廃止届 | 特定施設の使用を廃止したとき | 廃止した日から30日以内 |
承継届 | 特定施設を譲り受け又は借り受けたとき、相続や合併により承継したとき | 承継の日から30日以内 |
(参考)ダイオキシン類測定結果報告 | 排出ガス・排水・ばいじん等の測定を行ったとき | 測定後すみやかに |
- 1.水質基準対象施設が大気基準適用施設になったとき、又は大気基準適用施設が水質基準対象施設になったときも、該当部分に係る使用届が必要です。
- 2.水質基準対象施設を設置する事業場で、瀬戸内海水域に1日最大50m3以上の排水を排出する事業場は、水質基準対象施設(下水道終末処理施設を除く。)については瀬戸内海環境保全特別措置法の許可や届出の対象となり、この法律の届出は不要です。
(3)廃棄物焼却炉から発生する燃え殻等について
廃棄物焼却炉から発生するばいじん、燃え殻は、これらに含まれるダイオキシン類の濃度が3ng-TEQ/g(処理基準)を超えた場合は、ダイオキシン類が溶出しないように薬剤処理等を行うか、特別管理廃棄物として適正に処理しなければなりません。
(4)汚染状況の調査・測定義務
- 都道府県知事は大気、水質、土壌の汚染状況を常時監視します。
- 事業者には排出ガス、排出水、廃棄物焼却炉のばいじん、燃え殻などに含まれるダイオキシン類の濃度を年1回以上測定し、都道府県知事に報告します。都道府県知事はまとめて公表することになっています。 なお、指定都市および中核市については知事にかわり市長が行います。
(5)法に違反した場合の罰則について
法に違反した場合の罰則は以下のとおりです
No. | 該当施設 |
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設置届出に係る計画変更命令違反 |
1年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
排出基準違反に係る改善命令違反 |
|
排出基準違反 |
6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
事故時の措置命令違反 |
|
過失による排出基準違反 |
3ヶ月以下の禁錮又は30万円以下の罰金 |
特定施設設置(構造等変更)届出違反 |
3ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金 |
特定施設使用届出違反 |
20万円以下の罰金 |
設置届出提出後60日以前の設置 |
|
報告徴収違反 |
(6)その他
- ダイオキシン類により汚染された土壌に係る措置として、知事は対策が必要な地域を指定し、対策計画を策定します。
- 環境大臣は、ダイオキシン類の排出の削減のための計画を策定します。